2011年2月22日火曜日

エコカーがもたらす新しいライフスタイル

こんにちは。本日第20号目のメールマガジンを配信しました。その記事をこちらに転載します。

○環境エネルギーコラム:トークショー報告
東京大学新環境エネルギー科学創成特別部門主催
第9回トークショー「エコカーがもたらす新しいライフスタイル」
ゲスト:清水和夫さん(モータージャーナリスト、レーシングドライバー)



エコカーという言葉を最近よく見たり聞いたりする機会が増えてきましたが、今回は、自動車事情に詳しい清水和夫さんをゲストにお迎えして、学生のおふたり、飯塚修平さん(工学部3年)とミス東大の加納舞さん(工学部3年)の進行のもと、エコカーがこれから私たちの生活にもたらすさまざまな可能性についてお話を伺いました。

まず最初は、1880年代頃のガソリン車の歴史から。量産が始まったのはアメリカのヘンリー・フォードが立役者で、当時、フォードはスタンド・高速道路・自動車の3つを同時に普及させたそうです。「これで仕事をしない乗り物にご飯を食べさせなくてもいい。」というフォードの有名な言葉もあるそうですが、馬車から自動車への大きな時代の転換でした。

自動車のこれまでの歴史の中で、意外だったのが、20世紀初頭、ガソリン車が発明され実用化するまでの20~30年の間、電気自動車の時代があったそうです。石油を使ったガソリン車が発展しなかったら、EVの時代は長かったかもしれないと。では、なぜガソリン車が発展したのか、データを使って説明してくれました。



電気駆動と内燃エンジンの効率を比較してみると、エネルギー密度が圧倒的にガソリン車が高く、これが決め手になりました。EVだとガソリン1キロに対して60キロものリチウムイオン電池が必要になってしまいます。ガソリン車と電気駆動とは両極端のように得手不得手があり、今までの自動車にはできなかったところができるようになったのがハイブリッドで、これから先進国での主流となっていくだろうとのことでした。

世界では、ものすごい勢いで、エコカーのスーパーカーが登場しているそうです。清水さんによると、EVとエンジンはキャラが違うので、2つ持っているととてもおもしろいそうです。長い距離を走るには、ガソリンが必要。EVという新しい仲間が入り、ハイブリッドはブレーキを電気エネルギーとして貯金箱に入れられる。ハイブリッドのスーパーカーで、平日は奥さんがEVで街中で買い物など用事をこなして、週末はダンナさんがエンジンで遠出、なんてライフスタイルも楽しめるわけですと楽しげに話されました。

ところで、清水さんがどういう経緯でレーシングドライバーになったのかというと、22歳の学生の頃に志賀高原ラリーでルーキーとして出場し、いきなり優勝したことに始まるそうです。勝った理由はお金がなくてスパイクタイヤが買えなかったが、雪が降らなかったので勝ったと。2年目にも同じラリーで二連勝し、大学を出て技師として就職したものの、車が忘れられなくて戻ってきたのだそうです。清水さんが最近出場しているレースは耐久レースが多いそうですが、レースもエコを意識するようになってきたそうです。一周毎に燃料消費の量をピットの監督に無線で確認され、数名のドライバーの燃料消費を比較し、もし多く消費していたら、
「もっと燃料消費を抑えて走るように」と注意されるそうです。80年代はCVCCと環境対応したホンダシビックのエンジン制御技術がF1で使われていたとのこと。日本の省エネ技術はF1の世界でも通用しています。「速いことはエコ。軽くしないと速くならないし、空気抵抗を小さくしないと速く走れない。速くなる要素はエコロジーに使える。スポーツカーは反社会的ではない。」
という言葉も印象的でした。



これからの私たちの生活がどうなっていくのか。清水さんによると、これから世界的に自動車が普及拡大していくのは、アジアが中心になるだろうとのこと。ただしハイブリッドなどの高性能車ではなく、今でも相場が20~30万円の車が多いインドにおいては、50万円以下の車を中心に揃っていくだろうとのこと。それでも、数にして数億台が今後アジアを中心に増えるそうです。

一方、先進諸国では、ハイブリッドなどのコンベンショナルなエンジンでクリーンかつ燃費のよいエンジンがさらに伸びて、街中には、ハイブリッドで再生可能エネルギーが使えるようなタウンカーが多く走るようになる。また、リチウムを使った電動アシスト自転車や電動スクーターも増えて、ヨーロッパのようにレンタルで自由に乗れるカーシェアリングを取り入れるところを増やしてはどうかという提案もありました。 ヨーロッパの事例はなかなかおもしろかったです。たとえば、フランスのナントという街は、信号機を街の中心部から取り払ったそうです。ゾーン30、ゾーン15と走行速度を規制し、街の中心部には生活者しか入ることができないようにIT制御をした結果、交通事故は減ったそうです。当然、景観もよくなり、良い面がいろいろ見られるようになりました。

モビリティを発展させるために思い切って街から変えるという発想を自治体に持ってほしいという提案もありました。そうした街づくりは、これからCO2排出を減らしていくことにも効果的ともいえそうです。



これまでの100年間、エンジンと3つのペダルと常識の中で考えてきたものから、EVという技術を使って、いかに新しい自動車を作っていくのか。21世紀のクアトロを作るのだという気概が、今、ヨーロッパの自動車の製造現場にはあるそうです。これから5年くらいで車は大きく変わってくるだろう。 また、これからの高齢社会に向けたモビリティも作っていかなくてはなりません。20年後には、後期高齢者人口が2000万人を超える。だから、高齢者向けに時速20キロくらいのEVを作ってあげて、半径5キロ圏内を快適に移動できるようにしてあげるといいとの話もありました。

これからの車はますます多様性を求められます。日本の自動車業界の強みは、ある意味、優柔不断なところ。たとえばこれから車が急速に普及すると思われるインドでは、必要とされるのは高性能なPHVでもEVでもなく、生活のために必要な車。現在もインドでの日本車率は90%で、スズキだけで70%のシェアがある。タイやインドネシアでも日本車は強い。中国だけ見ていると違うように思えるかもしれないが、ASEANでは日本車は相当強い。

日本はガラパゴスとか言われているが、たくさんの種類をもつと強いんじゃないかとアジア諸国を回っていると感じるそうです。ヨーロッパ車は優れているが、哲学やブランドがかえって邪魔をするかもしれない。今、日本には閉塞感があるが、アジアの人から見たら坂の上の雲は日本かもしれない。もっと日本は、自分たちの価値観を再発見して自信をもったほうがいい。もうグローバル化なんてものは存在していない。ひとつの価値で皆が認める車は必要とされていないと、力強いメッセージがありました。

エネルギー問題は文明社会に直結する問題ですが、これからCO2排出削減をしていくためには、技術だけでエネルギー消費を減らすのは難しく、ライフスタイルからやっていくのが大切で、車のあり方や私たちの車とのつきあい方が解決策にもつながりそうです。

会場からもいくつか質問が寄せられ、活発な質疑応答になりましたが、清水さんのお話から見えてくる自動車がつくる新しいライフスタイルに期待感がぐっと高まった様子でした。清水さん、有意義なお話を本当にありがとうございました。

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