2009年9月17日木曜日

『海の森』再生の最前線!

こんにちは。
東京はまだ残暑で夏の名残りを感じる天候が続いています。
さて昨日、無事4号目のメルマガを配信しました。

メルマガに掲載された山本光夫先生の寄稿を転載したいと思います。

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○ゼミについての寄稿:山本光夫特任講師

「全学体験ゼミナール『海の森』再生の最前線を体験する」

 NEDO特別部門では、環境・エネルギー問題の本質を理解することを目的として、
教室での授業(座学)だけでなく、実際の対策現場に赴くフィールド学習授業を
開講しています。全学体験ゼミナール「『海の森』再生の最前線を体験する」は、
前回紹介させていただいた磯焼け回復技術に関する研究(「海の森」再生プロジェ
クト)で最初に実証試験を行った北海道増毛町にて昨年度より開講している授業です。

 磯焼けとは日本や世界各地の沿岸海域において生じている海藻群落が衰退または
消失する現象ですが、北海道では特に日本海側で生じています。今回全学体験ゼミを
実施した増毛町は旭川市の南西部、日本海側に位置しています。このゼミは、
実際の磯焼け現場と磯焼け回復実験が行われている海域を視察し、藻場再生への
取り組みや現場で対策に取り組む方々に触れること通じて、一般的に環境問題解決
のためにはどのようなアプローチが必要なのかを学ぶことが目標です。今年度は、
8月18~20日の2泊3日で実施しました。
以下に3日間の様子を紹介します。

<第1日目>
 新千歳空港からマイクロバスにて増毛町に向かい、お昼過ぎに増毛町に入りました。
この日は、実際に実証試験が行われている増毛町舎熊海岸の現場を海岸と海上から
視察を行いました。増毛町へマイクロバスで移動するには理由があります。敢えて
海岸線を通る経路にし、北海道日本海側の海の様子を観察するためです。天候の
良いときはエメラルドグリーンの海が広がっている様子が観察できるのですが、
これが磯焼けによるものであるということを実証試験現場の視察後に学生達は
理解できたようでした。実証試験現場では、実際の現場工事や水中調査を実施して
くださっている㈱オーシャングリーンの渋谷正信社長から、製鋼スラグと腐植物質
が入ったユニットが設置された場所や海藻の生育状況などについて詳細な説明を
受けました。学生達は、実際に自分の目で現場を見ることで、事前学習してきた
磯焼けとその対策現場の状況を実感することができたようです。


(※実証試験現場の視察)

<2日目>
 午前中は、宿舎となっている旧雄冬小中学校にて海水分析の実験を行いました。
分析といっても簡易的な機器を用いるため、分析精度は必ずしもよいとはいえない
ものの、場所の違いによる海水成分の違いや実証試験等を行なう際に必要な海水
分析の方法を理解する目的で行いました。学生達は、増毛町の海域や他の海域の
海水、また温泉水などの鉄や栄養塩などの測定を試み、分析手法やその必要性の
理解を深めたようでした。午後は、増毛町総合交流促進施設元陣屋にて、講義を
行いました。この講義では、現地漁業関係者として増毛漁業協同組合の竹内廣中
指導課長、渋谷社長、そしてNEDO特別部門から私と丸山康司特任准教授が授業を
行いました。竹内指導課長は、増毛漁業協同組合における磯焼け対策のこれまで
の先進的な取り組みについてお話をしてくださいました。


(※写真は竹内廣中指導課長)

 そして渋谷社長からは、自身が磯焼け対策にかかわってきた7年間について
幅広く話をしていただきました。また私からは、磯焼け回復技術を支える鉄と
腐植物質に関する基礎研究と海藻群落の再生による二酸化炭素固定効果などに
ついて少し専門的な授業を行いました。最後に丸山特任准教授からは、
環境対策を試みる際、個々の置かれている立場(社会的立場)の違いによって
対象の捉え方に差異が生じること、その問題を解決するための仕組み作りが
重要であることが実例を通して話されました。
なおこの講義は、公開授業として、地元水産関係者や一般町民など約15名も
参加され、8月21日付の地元紙『日刊留萌』には講義の様子が紹介されました。
授業のあとは、増毛町漁業協同組合漁村センターにおいて、地元海産物を
使ったバーベキューが行われ、地元関係者と学生との交流も行うことが
できました。


<3日目>
 最終日の午前中は、海藻群落など海の生態系への影響も指摘されている
砂防ダムの見学や、広く増毛町の風土を理解するために、サケの孵化場や
果樹園の見学を行いました。その後、増毛町での磯焼けに関する授業の
まとめを行い、増毛町を後にしました。そして午後は増毛町に隣接する
留萌市にある、留萌風力発電所の見学を行いました。
これは環境問題と同時にエネルギー問題、特に再生可能エネルギーに
ついての理解を深めることを目的として行ったものです。留萌市役所の
担当者の方に説明していただき、実際に風車の真下に行って風車の仕組み
などについて学習しました。





 以上が3日間の授業レポートとなりますが、受講学生からは「今回のゼミは
磯焼け問題をよく理解するということはもちろんだが、同時に環境問題解決
へのアプローチ方法、異なる立場の間の協力や妥協などについて学ぶもので
あったように思う。」「座学の授業で、環境エネルギー問題の概論を学んで
きたが、今回の実習を通してより一層理解を深めることが出来た。」といった
声をはじめとして、本ゼミで貴重な体験をすることができたとの感想が多く
寄せられました。この現場を重視したNEDO特別部門の全学体験ゼミナールは、
冬学期には青森県鰺ヶ沢町で開講されますが、本部門の特長的な授業として
来年以降も大事にしていきたいと考えています。


山本光夫:
東京大学教養学部附属教養教育開発機構特任講師。
今年度夏学期は『テーマ講義:環境・エネルギー問題
解決へのビジョン~その現状と対策技術の将来性~』と
『全学体験ゼミナール』のゼミを担当。
海洋に関する環境技術論には定評がある。