2011年8月31日水曜日

全学体験ゼミナール報告

「海の森」再生の最前線を体験する

 今年度の全学体験ゼミナールのうち、山本光夫特任准教授が引率した「『海の森』再生の最前線を体験する」が、8月4日(金)~7日(日)に行われました。

 東京大学教養学部の学生の他、共同研究を行う北海道大学の福島正巳准教授と学生さんも参加し、実際の磯焼けの現場と鉄供給による藻場再生実証試験が行われている海域の視察などを行いました。磯焼け回復への取り組みや様々な立場にある関係者に触れることを通じて、一般的に環境問題解決のためには、どのようなアプローチが必要であるかを学びました。



 具体的には1日目は新日本製鐵の室蘭製鉄所見学と藻場再生への取り組みの説明、2日目は北海道大学見学のあと、午後に増毛町海岸でのフィールドワーク、そして3日目は座学の講義とゼミ全体のまとめを行いました。

 通常の教室での授業では得ることのできない貴重な体験をすることができ、特別部門の全学体験ゼミはこの5年間、学生さんにとって何かしらの将来へのきっかけを与えることができたのではないかと自負しています。

メディア掲載2

北海道新聞(2011年8月16日・火曜日朝刊)
藻場復活へ手応え~鉄鋼スラグで磯焼け対策実験

 山本光夫特任准教授が、新日本製鐵と増毛漁業協同組合とともに、製鉄所から出る副産物の鉄鋼スラグを使い、磯焼けで海藻が生えなくなった藻場を復活させようと、増毛町の海岸線で2004年から実証実験を行っています。

 8月上旬に東京大学全学体験ゼミナールで学生らを引率して増毛を訪れた際に、山本先生を北海道新聞が取材しました。効果は確実でメカニズムを研究中とのコメントも掲載されています。
増毛での効果を踏まえて、鉄鋼スラグを使った磯焼け対策の試みが全国各地で行われているそうです。


メディア掲載1

都市問題(2011年8月号)
山本光夫特任准教授寄稿「東北における水産業の復興と沿岸域の環境」(10~14ページ掲載)


 「震災復興と水産業のこれから」を特集した「都市問題」8月号で、当部門の山本特任准教授が「東北における水産業の復興と沿岸域の環境」と題して寄稿しています。大津波は1兆円超の水産被害をもたらしましたが、津波に起因する沿岸生態系の変化と破壊も危惧されています。

 環境化学工学を専門とする山本先生は、これまで特に藻場を中心とした沿岸生態系の修復プロジェクトに取り組んできました。具体的には鉄鋼スラグと未利用バイオマス資源を有効活用した藻場再生技術の研究開発を軸としたものです。

 山本先生は沿岸域の生態系、生物多様性、地球温暖化問題解決に向けた展開も行なっており、今回の大震災における沿岸漁業を中心とした東北の水産業の復興支援活動に携わっています。
本稿では沿岸域の環境について懸念されること、また東北の水産業の復興への取り組みがどうあるべきかについて書いています。

関心のある方はぜひ手に取ってお読みください。




環境エネルギー研究棟竣工記念式典開催

8月25日(木)に東京大学先端科学技術研究センター環境エネルギー研究棟(3号館南棟)の竣工記念式典が行われました。この研究棟は、今後太陽光発電や風力発電等の次世代エネルギーの最先端研究など、エネルギー問題の総合研究開発拠点となります。
 JX日鉱日石エネルギー株式会社と共同研究を行うため、ENEOSラボも開所し、JXから常時数名のスタッフが常駐しています。



 式典の前に瀬川教授がご来賓の皆様を施設にご案内しました。中央は、JX日鉱日石エネルギー(株)木村社長です。



色素増感太陽電池です。



ENEOSラボにて研究内容の説明をしました。


 
 ご来賓とともに、新棟玄関前にて濱田東京大学総長、JX日鉱日石エネルギー(株)木村社長、中野先端研所長、他の皆様によるテープカットが行われました。



 新棟1階ホールにて竣工記念式典が執り行われました。瀬川教授による研究棟の概要説明の様子です。



瀬川研のメンバー一同も、新たな研究環境のもと一層研究活動に精進してまいります。

第6回色素増感および有機太陽電池に関するアジア会議

こんにちは。早いもので8月も末となりました。明日から9月なんて月日が過ぎゆくのは早いですね。
さて、きょうは特別部門のメールマガジンを配信しましたので、その内容を転載します。

○イベント案内
第6回色素増感および有機太陽電池に関するアジア会議(DSC-6)


 2006年にスタートしたこの会議も今年で6回目を迎え、九州の別府で開催することになりました。
色素増感太陽電池を含めた有機系太陽電池の研究が活発化する中、韓国、中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランドその他アジア・オセアニア地域の大学や企業の研究者を招き、研究成果の発表と討論を行います。

会場の国際コンベンションセンターは、阿蘇山、湯布院といった風光明媚な環境に囲まれており、会議に加えて、日本最大規模の八丁原地熱発電所の見学など、エクスカージョンも多数ご用意しています。発表申込の〆切は8月31日、参加申込の〆切は9月10日です。有機太陽電池にご興味ある方、ぜひ参加ください!

会期:2011年10月17日(月)、18日(火)
19日(水)は地熱発電所の見学会
会場:別府国際コンベンションセンター
主催:色素増感・有機太陽電池アジア会議事務局
共催:電気化学会光電気化学研究懇談会
協賛:日本化学会、電気化学会、応用物理学会、光化学協会

☆参加申込と詳細は下記HPからどうぞ
http://www.cc.toin.ac.jp/sc/dsc-6/

2011年7月5日火曜日

宮城の被災地に太陽電池ライトを寄贈

○活動報告:宮城の避難所に色素増感太陽電池ライトを寄贈 
被災地支援活動の一環として、5月初旬に宮城の避難所に色素増感太陽電池ライトを98個寄贈しました。このライトは、避難所での生活に役立ててもらうために特別に開発チームが製作したものです。



瀬川教授、内田特任准教授が直接避難所を訪ね、ライトの使い方の説明をしました。
日中充電しておけば、スイッチを押すだけでライトが灯るというシンプルな仕組みで、高齢者の方も簡単に操作できます。




この色素増感太陽電池ライトは、懐中電灯のように明るくしたい周辺を照らしてくれるため、足元灯等として使っていただけるようにと作りました。宮城の避難所では、体育館などの施設を利用しているため、普段は大型の照明を利用しています。就寝時間に消灯し、トイレに立った際に電気をつけると周りに迷惑がかかり、住民間のトラブルになることもあったそうです。「こんな照明が欲しかった。」と喜んで受け取っていただきました。

数日後、避難所の担当の方が写真を送ってくれました。廊下や階段、室内の足元灯としてさっそく使っているそうです。8時間ほど日中充電すれば、十数時間ライトが灯り続けているとのことでした。





 そして先日、寄贈して1カ月半後の様子を確認しようと内田先生が避難所を訪ねました。
「もし使われていなかったら、回収しよう・・・」と思っていたそうですが、避難所ではライトはとても重宝され、担当者を決めて、まとめて日中充電して毎日利用していると、うれしい言葉を頂戴しました。すべて問題なく動いており、大事に使っていただいていました。



 このライトのお陰で、よく眠れるようになり、避難所での生活のストレスが軽減されたと住民の皆さんがとても喜んでいるそうです。
中には、ホームセンターにこのライトを求めて行った人もいたというエピソードも!
まだ市場には出回っていないものなので、申し訳ない気持ちですが、便利でいいものだと思っていただいたことに、開発チームもお役に立てて本当によかったと思っています。




 宮城の避難所で暮らす住民の皆さんは、近く順次仮設住宅に引っ越していくそうですが、それまでの間、このライトには皆さんの生活をサポートできるよう、しっかりがんばってもらいたいです。

DSCへのメディア取材

こんにちは。お元気ですか?
暑い日が続いています。先日配信したメルマガから一部内容を転載します。

○メディア取材
日刊工業新聞

太陽光発電への期待がさらに高まっていますが、瀬川研で開発中の色素増感太陽電池について、メディアからの取材も増えています。日刊工業新聞(6/27)では、「太陽電池低価格化の切り札『色素増感型』に脚光」と題して、瀬川教授のインタビュー記事が掲載されました。
色素増感太陽電池は従来のシリコン型太陽電池とは原理も作り方も異なり、製造コストの低い次世代技術として期待されています。また色素増感太陽電池は、電気化学反応を使っているため、朝夕の太陽光が弱い時間帯でも変換効率の低下が少ないのが特徴のひとつです。
電力ピークの平準化にも役立つため、電力系統への影響はシリコン型と比べて抑えられることができます。




DIME 2011年7月5日号
色素増感太陽電池の研究開発をともに行っている桐蔭横浜大学宮坂研開発チームと
瀬川教授が取材を受けました。瀬川教授は、色素増感太陽電池の紹介とともに、
日本の電力需給バランスや太陽光発電の今後の展望についてインタビューに答えています。
DIMEはただ今発売中ですので、ぜひ手に取って見てみてください。

2011年2月22日火曜日

シンポジウム「海の緑化技術の展開~沿岸生態系修復による炭素固定の展望~」

特別部門が海の緑化研究会とともに開催するシンポジウムのご案内です!

海の緑化研究会、新環境エネルギー科学創成特別部門主催
シンポジウム「海の緑化技術の展開~沿岸生態系修復による炭素固定の展望~」


日本や世界各地の沿岸海域では、海藻群落(藻場)が衰退・消失する「磯焼け」問題をはじめとする生態系破壊の問題を抱えています。藻場の修復については、従来の手法に加えて「鉄」の効果が注目され、分野を超えた幅広い協力で取り組みが進められています。

海の緑化研究会では、海水中の溶存鉄不足に着目し、鉄鋼スラグと腐食様物質を混合したユニットによる藻場再生技術(海の緑化技術)について研究開発を進め、この技術は実用レベルの段階にいたっています。一方で、藻場の修復は、単に緑化技術の実用化にとどまらず、生物多様性の保全や沿岸の生態系の修復による炭素固定へとつながる可能性をもっており、地球規模の環境問題への貢献への期待も大きくなっています。

海の緑化研究会では、研究成果の報告とともに生態系保全・生物多様性の観点から森・川・海のつながりに着目した生態系保全についてのシンポジウムを開催してきましたが、今回のシンポジウムでは、もうひとつの重要課題である地球温暖化問題の解決への寄与に焦点をあてて開催します。

日時:平成23年3月8日(火)13:00-17:40
場所:東京大学教養学部18号館ホール
プログラム:
第一部 13:10-16:20 講演(発表7件)
第ニ部 16:50-17:30 総合討論
懇親会 18:00-    駒場コミュニケーション・プラザ南館3F交流ラウンジ
参加費:シンポジウムは参加無料、懇親会参加費4000円

★詳細はこちらをご覧ください↓
http://www.komed.c.u-tokyo.ac.jp/nedo/seminar.html
★参加をご希望の方は、下記メールにて1)氏名 2)所属 3)役職(学生の場合は学年)4)連絡先(電話、メールアドレス) 5)懇親会参加の有無を明記の上、お申込みください。
申込先:ryokuka_conference@eco.c.u-tokyo.ac.jp
皆様のご参加をお待ちしております!

エコカーがもたらす新しいライフスタイル

こんにちは。本日第20号目のメールマガジンを配信しました。その記事をこちらに転載します。

○環境エネルギーコラム:トークショー報告
東京大学新環境エネルギー科学創成特別部門主催
第9回トークショー「エコカーがもたらす新しいライフスタイル」
ゲスト:清水和夫さん(モータージャーナリスト、レーシングドライバー)



エコカーという言葉を最近よく見たり聞いたりする機会が増えてきましたが、今回は、自動車事情に詳しい清水和夫さんをゲストにお迎えして、学生のおふたり、飯塚修平さん(工学部3年)とミス東大の加納舞さん(工学部3年)の進行のもと、エコカーがこれから私たちの生活にもたらすさまざまな可能性についてお話を伺いました。

まず最初は、1880年代頃のガソリン車の歴史から。量産が始まったのはアメリカのヘンリー・フォードが立役者で、当時、フォードはスタンド・高速道路・自動車の3つを同時に普及させたそうです。「これで仕事をしない乗り物にご飯を食べさせなくてもいい。」というフォードの有名な言葉もあるそうですが、馬車から自動車への大きな時代の転換でした。

自動車のこれまでの歴史の中で、意外だったのが、20世紀初頭、ガソリン車が発明され実用化するまでの20~30年の間、電気自動車の時代があったそうです。石油を使ったガソリン車が発展しなかったら、EVの時代は長かったかもしれないと。では、なぜガソリン車が発展したのか、データを使って説明してくれました。



電気駆動と内燃エンジンの効率を比較してみると、エネルギー密度が圧倒的にガソリン車が高く、これが決め手になりました。EVだとガソリン1キロに対して60キロものリチウムイオン電池が必要になってしまいます。ガソリン車と電気駆動とは両極端のように得手不得手があり、今までの自動車にはできなかったところができるようになったのがハイブリッドで、これから先進国での主流となっていくだろうとのことでした。

世界では、ものすごい勢いで、エコカーのスーパーカーが登場しているそうです。清水さんによると、EVとエンジンはキャラが違うので、2つ持っているととてもおもしろいそうです。長い距離を走るには、ガソリンが必要。EVという新しい仲間が入り、ハイブリッドはブレーキを電気エネルギーとして貯金箱に入れられる。ハイブリッドのスーパーカーで、平日は奥さんがEVで街中で買い物など用事をこなして、週末はダンナさんがエンジンで遠出、なんてライフスタイルも楽しめるわけですと楽しげに話されました。

ところで、清水さんがどういう経緯でレーシングドライバーになったのかというと、22歳の学生の頃に志賀高原ラリーでルーキーとして出場し、いきなり優勝したことに始まるそうです。勝った理由はお金がなくてスパイクタイヤが買えなかったが、雪が降らなかったので勝ったと。2年目にも同じラリーで二連勝し、大学を出て技師として就職したものの、車が忘れられなくて戻ってきたのだそうです。清水さんが最近出場しているレースは耐久レースが多いそうですが、レースもエコを意識するようになってきたそうです。一周毎に燃料消費の量をピットの監督に無線で確認され、数名のドライバーの燃料消費を比較し、もし多く消費していたら、
「もっと燃料消費を抑えて走るように」と注意されるそうです。80年代はCVCCと環境対応したホンダシビックのエンジン制御技術がF1で使われていたとのこと。日本の省エネ技術はF1の世界でも通用しています。「速いことはエコ。軽くしないと速くならないし、空気抵抗を小さくしないと速く走れない。速くなる要素はエコロジーに使える。スポーツカーは反社会的ではない。」
という言葉も印象的でした。



これからの私たちの生活がどうなっていくのか。清水さんによると、これから世界的に自動車が普及拡大していくのは、アジアが中心になるだろうとのこと。ただしハイブリッドなどの高性能車ではなく、今でも相場が20~30万円の車が多いインドにおいては、50万円以下の車を中心に揃っていくだろうとのこと。それでも、数にして数億台が今後アジアを中心に増えるそうです。

一方、先進諸国では、ハイブリッドなどのコンベンショナルなエンジンでクリーンかつ燃費のよいエンジンがさらに伸びて、街中には、ハイブリッドで再生可能エネルギーが使えるようなタウンカーが多く走るようになる。また、リチウムを使った電動アシスト自転車や電動スクーターも増えて、ヨーロッパのようにレンタルで自由に乗れるカーシェアリングを取り入れるところを増やしてはどうかという提案もありました。 ヨーロッパの事例はなかなかおもしろかったです。たとえば、フランスのナントという街は、信号機を街の中心部から取り払ったそうです。ゾーン30、ゾーン15と走行速度を規制し、街の中心部には生活者しか入ることができないようにIT制御をした結果、交通事故は減ったそうです。当然、景観もよくなり、良い面がいろいろ見られるようになりました。

モビリティを発展させるために思い切って街から変えるという発想を自治体に持ってほしいという提案もありました。そうした街づくりは、これからCO2排出を減らしていくことにも効果的ともいえそうです。



これまでの100年間、エンジンと3つのペダルと常識の中で考えてきたものから、EVという技術を使って、いかに新しい自動車を作っていくのか。21世紀のクアトロを作るのだという気概が、今、ヨーロッパの自動車の製造現場にはあるそうです。これから5年くらいで車は大きく変わってくるだろう。 また、これからの高齢社会に向けたモビリティも作っていかなくてはなりません。20年後には、後期高齢者人口が2000万人を超える。だから、高齢者向けに時速20キロくらいのEVを作ってあげて、半径5キロ圏内を快適に移動できるようにしてあげるといいとの話もありました。

これからの車はますます多様性を求められます。日本の自動車業界の強みは、ある意味、優柔不断なところ。たとえばこれから車が急速に普及すると思われるインドでは、必要とされるのは高性能なPHVでもEVでもなく、生活のために必要な車。現在もインドでの日本車率は90%で、スズキだけで70%のシェアがある。タイやインドネシアでも日本車は強い。中国だけ見ていると違うように思えるかもしれないが、ASEANでは日本車は相当強い。

日本はガラパゴスとか言われているが、たくさんの種類をもつと強いんじゃないかとアジア諸国を回っていると感じるそうです。ヨーロッパ車は優れているが、哲学やブランドがかえって邪魔をするかもしれない。今、日本には閉塞感があるが、アジアの人から見たら坂の上の雲は日本かもしれない。もっと日本は、自分たちの価値観を再発見して自信をもったほうがいい。もうグローバル化なんてものは存在していない。ひとつの価値で皆が認める車は必要とされていないと、力強いメッセージがありました。

エネルギー問題は文明社会に直結する問題ですが、これからCO2排出削減をしていくためには、技術だけでエネルギー消費を減らすのは難しく、ライフスタイルからやっていくのが大切で、車のあり方や私たちの車とのつきあい方が解決策にもつながりそうです。

会場からもいくつか質問が寄せられ、活発な質疑応答になりましたが、清水さんのお話から見えてくる自動車がつくる新しいライフスタイルに期待感がぐっと高まった様子でした。清水さん、有意義なお話を本当にありがとうございました。

2011年2月18日金曜日

清水和夫さんのエコトーク

こんにちは。1月に開催された特別部門主催の清水和夫さんのトークショーは、無事盛況のうちに終了しました。来週中にメルマガでイベントの報告をしますが、その前に参加者の皆さんとの集合写真をどうぞ。