2009年8月18日火曜日

海の森再生プロジェクト

こんにちは。
皆さん、楽しい夏休みを過ごされましたか?

さて、メルマガ3号に掲載した山本光夫先生の研究に関する寄稿を
このブログでもご紹介したいと思います。
磯焼けを再生させるという、画期的なプロジェクトです。
ぜひご一読ください。


○研究についての寄稿:山本光夫特任講師

『「海の森」再生プロジェクト-
鉄鋼スラグと未利用バイオマスによる磯焼け回復技術』

陸上における「砂漠化」と同様、海洋においても「砂漠化」が生じていることは、
一般的にはそれほど知られていないでしょう。ここで言う「海の砂漠化」とは
日本や世界各地の沿岸海域で海藻群落が消失している「磯焼け」現象のことを
指します。この磯焼けの原因としては、水温上昇、ウニなどの藻食動物による食害
のほか、溶存鉄不足など様々な要因が考えられます。磯焼け対策としては、藻食
動物の除去や防御といった食害に着目した対策が広く行われてきていますが、
筆者らは溶存鉄不足に着目した新たな磯焼け対策技術の研究開発に取り組んでいます。

 海藻成長にとって必須成分である鉄は、本来、森・川・海のつながりによって
供給されますが、護岸工事や河口堰建設などによって鉄供給不足となり、その結果
海藻群落が衰退・消失すると考えられています。この鉄不足に対して、鉄鋼スラグ
と未利用バイオマス(腐植物質)を用いて人為的に鉄(フルボ酸鉄・フミン酸鉄)
を供給することを考えたものが本技術です。

この技術の大きな特長は、環境問題の解決と同時に産業副産物等の有効利用が
可能であることで、一石二鳥の効果を狙っています。約10年前より故・定方正毅
東京大学名誉教授によって研究が始められ、企業との共同研究へと発展して
海の緑化研究会が発足しました。
現在は大学・研究機関などが5以上、企業10社から構成される研究会へと発展し、
本技術の実用化に向けた産学連携のプロジェクトが実施されています。
この3月には、これまでの成果をまとめたシンポジウムも開催いたしました。
(※シンポジウムの概要

 この技術開発の転機となったのは、2004年10月より実施された
北海道増毛町舎熊海岸における実証試験でした。それまでの基礎研究に
基づいて行われたこの試験において、鉄鋼スラグと腐植物質を混合したユニットを
海岸汀線に設置した結果、試験開始翌年には磯焼け海域において海藻群落の再生が
確認でき、本技術が藻場再生に効果のあることが確認されました。
現在は、増毛町において効果の継続性評価が行われているとともに、北海道、
九州をはじめとした全国約20箇所(以上)に実証試験が拡大しており、
磯焼け対策技術としての有効性・汎用性が示されつつあります。





(写真は実証試験前の海底と再生した海藻群落~以下URLより。
本技術の詳細はこちらをご覧ください。)

 本技術は、海藻群落の再生への着眼点を「海藻を食べる生物を取り除く」ことか
ら「生物からの摂食に負けない海藻量に増やす」という俯瞰的な視点に立った発想の
転換により生まれた技術と言えます。
またプロジェクトの体制も、筆者の専門である化学工学だけでなく有機化学や
藻類額など多分野の研究者、そして多数の企業から成り立っており、異分野融合の
取り組みと言えるでしょう。
こういった観点から、磯焼け対策という個別環境技術の確立という次元に留まらず、
環境やエネルギーの問題解決に必要な「俯瞰性」や「異分野融合」という要素を
含んでいると言えます。

これを踏まえて、現在筆者はNEDO特別部門において磯焼けを題材とした授業を
行っています。座学(総合科目やテーマ講義)だけでなく、全学体験ゼミナールなど
現場体験を重視した科目の開講もしています。
 本技術の今後の展開としては、藻場造成による二酸化炭素吸収効果(地球温暖化
対策)や、バイオ燃料への海藻の利用などが期待されています。
一方で、筆者は森・川・海のつながりについて鉄を柱として明らかにする研究を
開始しています。これは生態学ともつながりのできる可能性があります。
このように、「海の森」再生のプロジェクトをベースとして、幅広く環境や
エネルギー問題解決へとつながる研究展開を今後行っていきたいと考えています。


山本光夫:
東京大学教養学部附属教養教育開発機構特任講師。
今年度夏学期は『テーマ講義:環境・エネルギー問題
解決へのビジョン~その現状と対策技術の将来性~』と
『全学体験ゼミナール』のゼミを担当。
海洋に関する環境技術論には定評がある

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